86 Style
先に登場した『Street-Fighter 86』ですが、企画の段階から2タイプのクルマを考えていました。
もちろん“ハチロク”ですから、2つのタイプとは、当然《レビン》と《トレノ》ということになります。
昔から私の中では、レビンは走りのイメージ、トレノはおしゃれなイメージというのがあって、そこから公道での走りをイメージした『Street-Fighter 86』を《レビン》としてデザインしたのですが、ではおしゃれな《トレノ》は? ということで、《レビン》とは180度考え方を変え、モダンスタイルの最高にかっこいいクーペにしようというイメージが浮かびました。
そこから高層ビルに囲まれたメトロポリスを颯爽と走るスタイリッシュなクーペ、“Contemporary Coupe Style for AE86”をコンセプトに掲げ、デザインを進めていったクルマがこの『86 Style』です。
(本当は藤原拓海の“ハチロク”は《トレノ》なので、“Street-Fighter”コンセプトには矛盾があったのですが…。)
“Contemporary Coupe Style for AE86”を具体化するにあたっては、ランチア・ベータモンテカルロやフォルクスワーゲン・シロッコ(初代)、ランチアデルタ、ホンダプレリュード(最終型)など、ピニンファリナやイタルデザインといったイタリアのカロッツェリアの手によって生まれたデザインをリファレンスとしました。
これらのクルマは半径の大きな曲線を放物線のように徐々に曲率を小さくしていったアプローチカーブでスムーズに連続させ、鉄板が力を受けて“しなる”あの感覚を巧みに表現しています、これによって面はダイナミックな力感を持ち、ともすれば「単純」になりがちなラインベースのスタイリングをハイセンスなデザインに昇華し、上質なビジネススーツのような仕立ての良さを感じさせる魅力を備えています。
『86 Style』もこれに倣って、シャープでありながらしなやかな張りのある曲線で構成し、“Contemporary”の表現として上記にクルマたちにはない、面の曲率が車全体の流れに沿って変化するソフトでリッチなサーフェースをデザインしました。
最近は、燃費が良くて、中が広くて、人がたくさん乗れる、まるで冷蔵庫のようなクルマばかりになってしまい、AE86やシルビア、プレリュード、といった、1980年〜90年代に主流であった格好いいクーペがいなくなってしまいました。
世の全ての人が冷蔵庫のようなクルマを欲しがっているわけではないでしょうから、『86 Style』のようなおしゃれでスタイリッシュなクーペに乗りたいと言う人は結構いると思うのですが、どこかのメーカーがFRの4ドアセダンを開発して、それをベースにこんなクーペを作ってくれませんかね。